波の崩れる地響きが海に入ることを躊躇させる。水平線は波で見えない。
形は簡単そうに見えるが、カナリのスピードで崩れている。
今一度、自分に問いただす。
おっしょさんの言う通り100%の気持ちと身体で出て行けるか?
雲の隙間から陽が射し、ギラギラが更に高揚を誘う
爆音と共にクローズドアウト。
もまれた時を想像する。
夏の間に息を止めて潜水し水中で石を積む訓練を思い出し、慌てない事を今一度確認した。どうする? いけるのか自分?
Bayの反対側にもそうとう大きいのがヒットしてるようだ。
風が変わってきた。
雲が動いて空がみえはじめる。
ビーチに止めたトラックの横で大きく息を吸って吐く。ストレッチをしながら精神を無に合わせ、こわばった身体から緊張をほぐしとる。
慌てずにゆっくり少しずつ心と身体をリラックスさせてる
テイクオフする瞬間の自分をイメージしてみる。
待つ位置やタイミングを間違えたら命取りになる。真剣だ。
しばらくしてから気持ちも身体も整ってきたので冬の為に散々見て回ってさっき買ったウエットを着る。板はPoipuのレジェンドJoeが削った7’2のminiGunでパドルアウトしてみると沖の現場はすごいことになってた。
巨大なウネリがとてつもない長い壁のように盛り上がりながらやってくる。ピークからブレイクするまでの距離がながく長いGUNでないとパドルが間に合わない。奥のピークにはチューブポイントがあり60人以上がラインナップしていた。
うねりが大きいのでブレイクする位置はセットごとに変わり、カレント(潮の流れ)がもの凄く強いのでどんどんピークに流されて行く。位置をキープするのにずっとパドルし続けないとならない。
混んでるピークを避けてセカンドブレイクで状況を見ながら行ける波を探す。カレントが強く、すぐに流されるのでタイミングを取るのが至難だ。大きな波に人数も多いので気を使うことが多く中々集中出来ずに乗れない。
セットがはじまりピークを見ていると巨大な壁が盛り上がり崩れる瞬間白髪のオヤジが猛烈にパドルして長いGUNの上に立ち上がり、凄まじい勢いで走りだした。と同時に別のアンクルがドロップインして突っ込む。二人は10ftフェイスの波の上で押し合いへし合いしながらぶつかり、相手を掴み合って通常ではありえないラインを描きこちらにやってきた。
すでに板が走り始めてしまい止められなかったのかもしれないけど、1本の波に乗るのは一人がルール。
もの凄い早さで迫る二人を目前にして自分めがけて突っ走ってやってくるので、一瞬驚き慌てながらボードを沈めようとしても浮力のある板は沈まない。板をひっくり返しながら出来る限り必死に水の中に潜った。
背中を大きなものが凄い勢いで通り過ぎた感覚がウエット越しに伝わってくるのが分かった。痛みがないので助かった思ったのも束の間、安堵してる暇なく次のセットが押し寄せて来たのでリーシュを手繰りボードを引き寄せてパドルを再開した。が 何か変だ? あきらかに前に進まない。
セットの間隔は短く、これでもかと果てしなく続いてどんどん入ってくる波。良さそうなのが来たのでパドルするも加速しない。さっきまでとあきらかに違う。動きが鈍く重く何かおかしい。
波のセットが過ぎた短い間に板の全体を見てみると中央のストリンガーから左側のレールまでザっくりと1インチ(2.54cm)程のラインが真ん中からテールの間にやや斜めに彫られて向こう側の景色が見えていた。ほとんど3つに分かれる寸前。フォームをグラスファイバーで覆っている断面がバッチリみれてメーカーの展示会にあるサンプルのようだ。
押し合いながらやってきたアンクル達の一人はシングルのビックフィン、もう一人は2+1のトラスタセットアップのガンに乗って並走するように俺のボードの上を走ったのだと分かった。
その場ではda dayの思い出タトゥーを板に彫ってくれたんだなぁなんて言ってる余裕も無く、もし背中だったらと思ったときゾッとして全身に鳥肌が走った。
がっくりしながらも次のセットがやってきて休む暇はない。
波に乗った人が手を上げても波のトップに付かない程の大きなチューブにすっぽりと包まれながら凄い勢いで走ってくる。
ダックダイブして避けながら、「さっきヤバいのが突っ込んできたけど、この大きさでドロップインはありえないでしょ?」と隣のアンクルに話すと「イカレタハウレ(白人)がやってきてからここはクレイジーになっちまったよ。」と一言。
そこへさっき押し合いながら突っ込んで板の上を走ってくれたオヤジの一人が目の前をパドルしてピークに向かって行った。彼は分かっているのかいないのか、チラリとこちらをみるものの一言もないまま通り過ぎていった。
波が上がってくると人の気持ちも上がるのは事実だ。人々は時に興奮しすぎて見境無くなることがある。一部の人達は「俺が乗るんだ!」「いや、俺が乗る!!」と無言でも伝わってくる行動を目の当たりにして言い争う気にもなれずに「板の上を走ったろ!!」と言うこともなく、行き場所の無いとても残念な気持ちで自分の存在も否定したい気分だった。
板も壊れて乗れないし、これ以上みんなに迷惑をかけたくないので戻ろうとスープに推してもらうも板に溝があるので上手く走らない。揉まれながら長いパドルをしてようやく浜にもどると全身からチカラが抜けてしばらく放心状態になった。
波に集中するどころか人だらけで一本も乗れずに突っ込まれて大事な板が壊れたけど、板は買えるが命は買い替え出来ないことを実感してすべての事柄を含んでこれが今の自分の技量だと知り身に染みる。
生きて返させてもらったのでこれを糧にさらに修業を続けると決める。
mahalo nui loa
keep on surf for life